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東京地方裁判所 昭和46年(わ)2447号 判決 1972年3月14日

主文

被告人を懲役二年および罰金一万円に処する。

未決勾留日数中二〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、タクシーを使用して道路運送法三条二項三号所定の一般乗用旅客自動車運送事業(一個の契約により乗車定員一〇人以下の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般自動車運送事業)を経営している株式会社グリーンキャブの東京都新宿区戸山町所在の本社営業所に配置するタクシーの運転者としてタクシー運転者登録原簿に登録を受け、登録タクシー運転者証の交付を受けていた者であるが、昭和四六年四月二六日午後一〇時二〇分ごろ東京都港区新橋二丁目六番四号のサッポロラーメン本舗の前(北側)の道路で、株式会社グリーンキャブ本社営業所配置の事業用普通乗用自動車(タクシー)に運転者として乗務し、同会社の業務に関し旅客の運送を目的として右自動車を運行していた(客待ちのため継続的に停止していた)際、登録タクシー運転者証を右タクシーの前面ガラスの内側に(右登録タクシー運転者証の表を右タクシーの外部に、裏を内部に向けて)利用者に見易いように表示することをしていなかつたものであり、

第二、昭和四六年四月二六日午後一〇時二〇分ごろ東京都港区新橋二丁目六番四号のサッポロラーメン本舗の前(北側)の道路で普通乗用自動車を西向きに駐車して車外に出ていた際、警視庁交通部交通処理課所属の警察官田中操が被告人に対し前記第一の犯行につき職務質問をしようとして「これはあなたの車ですか。警視庁の者ですけど。」と声をかけたので、逃走しようという気をおこし、右自動車に乗り込み、これを発進させて、右転回して東方に向かつたがその進路前方(東方)の交差点の交通信号機が右自動車に対し停止信号を示していたので、やむなく再び右転回して西方に向かつたが同所六番一六号の太陽銀行の前(北西側)の交差点の交通信号機が右自動車に対し停止信号を示していたのでその交差点の手前(東側)で右自動車を一時停止させていたところ、警視庁交通部交通処理課交通捜査二係所属の警察官高橋富造(昭和六年一二月二五日生)が前記第一の犯行を現認し、これにつき被告人を取り調べようとして右自動車の左側前部の窓(約二〇センチメートル開けてあつた。)から被告人に対し「警察の者だ。ドアを開けなさい。」と声をかけたところ、被告人はこの声を聞き高橋富造が警察官であつて前記第一の犯行につき被告人に職務質問をしようとしているということを了解したのにかかわらず、「これはまずい。」と思い左側前扉のポッチを押してこの扉が開かないようにしたが、高橋富造がこの扉を開けるため、この扉の窓ガラスのあいているところから手を差し込みこの扉のポッチを引いたが、その際、高橋富造の職務執行行為を妨害しようと企て、この扉の窓ガラスを締めるべくハンドルを巻き上げて高橋富造の片手をこの扉の窓枠上部と窓ガラスとの間にはさみ込み、そのころ警視庁交通部交通処理課所属の巡査部長片桐勝久がこの扉を開けて右自動車の助手席に乗り込んだのに、被告人は高橋富造の職務執行行為を妨害すべく、高橋富造が手を前記のとおり挾まれて動きがとれない状態でいるのを知りつつ右自動車を発進させ、同人を引きずつたまま約四五メートル(右自動車が、そのころ前記交差点の西側のところを西進中の山口重忠運転の普通乗用自動車に衝突したときごろまでの間)走行し、もつて高橋富造に暴行を加え、同人は右衝突のころ被告人運転の自動車から手が抜けたため路上に転倒し、その結果被告人は高橋富造に対して約三週間の加療を要した頭部、左上腕、腰部、左臀部、両側大腿及び両側足部打撲擦過創の傷害を負わねると共に同人の職務執行を妨害したものであり、

第三、自動車運転業務に従事していた者であるが、昭和四六年四月二六日午後一〇時二〇分ごろ前記第二の如く高橋富造を引きずつたまま普通乗用自動車を東京都港区新橋二丁目六番一六号の太陽銀行の前(北西側)の交差点内で運転中、右自動車の助手席には前記のとおり片桐勝久が乗り込み、かつ被告人に大声で「どうするんだ。」と怒鳴りつけていたのであり、また右自動車は高橋富造を引きずつたまま走行していたのであるが、かかる場合自動車運転業務従事者としては、かような状態では正常な運転(左側併進車の動静の確認、ハンドルやブレーキの適確な操作)ができずそのため他の通行車両との衝突およびこれによる他人の身体の傷害という結果が生ずるかも知れないことを予想し、その運転の自動車に制動をかけてこれを停止させなければならないという業務上の注意義務を負担しているが、被告人はこれを怠り、如上の状態のままその運転の自動車を約四六キロメートル毎時の速さで西進させ続けていたところ、そのころ山口重忠運転の普通乗用自動車が被告人運転の自動車の左側を西進しており、被告人は前記注意義務(制動義務)違反のため被告人運転の自動車の車体を山口重忠運転の自動車の車体右側面に衝突させ、びの衝撃により右自動車を左前方に暴走させ、そのころその付近の路上で普通乗用自動車を停めて、そのタイヤ交換のため右自動車のそばで作業にとりかかろうとしていた浜村富士(大正七年一二月一四日生)の身体に山口重忠運転の自動車の車体を衝突させ、その結果浜村富士に対して約三月半の加療を要した左上腕挫滅創、複雑骨折、筋動脈、神経切断、胸部打撲傷の傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)<略>

(法令の適用)<略>

(山本卓)

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